セントルイスのお着物の夜
少し遅くなりましたが、先日セントルイスで行われたHiroya Tsukamoto(塚本浩哉)さんのコンサートに誘ってくださり、行ってきました。京都出身でバークリー音楽大学に学び、現在はアメリカを拠点に活動するギタリストであり作曲家でもある彼。繊細で流麗なアルペジオと、ループペダルを使ってまるでオーケストラのような音の広がりを生み出す独自のスタイルで知られています。日本人アーティストさんということで、祖母から譲り受けたThe Japan的な「いろは柄」の帯を締めて会場に向いました。ひらがなが連なり、網目模様のように広がるその帯は、まるで音のリズムのようで。。。舞台に響く音楽と溶け合うには、この帯しかないと直感しました。
芹沢銈介と型絵染の世界

いろはといえば、芹沢銈介(1895–1984)さん。彼は沖縄の紅型(びんがた)に影響を受けつつ、自らの型染め「型絵染(かたえぞめ)」を確立し、1956年に重要無形文化財保持者(人間国宝)に認定されました。
着物や帯だけでなく、屏風、書籍装丁、ガラス絵、カレンダーなど生活全般に美を届ける仕事を残しました。彼の作品に流れる精神は、柳宗悦らが提唱した民藝運動の理念「暮らしの中にある無名の美」を体現したといわれています。
友禅と型絵染

私は若い頃京都で友禅絵エアブラシの学校を卒業しました。今年は手描き友禅染の工房を訪れ体験させていただきました。京都の友禅は加賀友禅とはまた違い、手描きの線の美しさが際立ち、繊細で鮮やかです。一方で芹沢の型絵染は、型紙で切り取られた色面がリズムを刻み、静と動のバランスを生みます。線で語る友禅、面で奏でる型染め。両者は異なる表現でありながら、どちらも「色と余白の呼吸」で布に物語を宿しています。この様にアートをまとえる楽しさは着物ならではの贅沢の様に思います。
「いろは歌」と仏教思想
いろはといえば、芹沢銈介。芹沢銈介といえば「いろは歌」。いろは、はもともと手習いのお手本として47文字つくられたようです。そのいろは歌は仏教思想と深く結びついており、その背後には『涅槃経』の四句「諸行無常・是生滅法・生滅滅已・寂滅為楽」があります。
* 諸行無常(すべてのものは移ろう)
* 是生滅法(すべては生じ、やがて滅する)
* 生滅滅已(生死を超越して悟りに至る)
* 寂滅為楽(迷いを離れた境地こそが真の安楽)
いろは歌の詩とその意味を現代語で見てみると
いろはにほへと ちりぬるを
→ 色は美しく咲いても、やがて散ってしまう(諸行無常)
わかよたれそ つねならむ
→ 誰しもが永遠に生きることはできない(是生滅法)
うゐのおくやま けふこえて
→ 苦しみの山を今日越えた(生滅滅已)
あさきゆめみし ゑいもせす
→ 浅い夢も酔いも去り、悟りの境地へ(寂滅為楽)
いろは歌は、日常にある「無常」を受け入れながら、今この瞬間を生きることの大切さを静かに語りかけてくれる歌です。
その夜、いろは柄の帯を締めて聴いた音楽は、格別でした。音の波が、帯の文字と共鳴して体の中に流れ込んでくるように感じられたのです。
「有為の奥山 今日越えて」——まさにその言葉のように、一瞬ごとに変わりゆく音楽の中で、日々の煩慮がうつろいゆくようでした。(一応僧ですが、人なので悟りにはまだ至っていません笑)
結びにかえて

祖母から受け継いだ帯を締め、芹沢銈介の世界に触れ、仏教の無常観を胸にコンサートへ向かった夜でした。彼の音楽は、フォークやクラシック、南米のリズム、そして日本的な情緒が溶け合うもので、聴いていると自分が旅した場所も、そうでない場所も、彼が訪れた旅の情景と相まって次々と浮かんでくるようでした。たき火は特に匂いまで香ってくるようで、一番のお気に入りです。久しぶりにアメリカで日本人の心に触れ、私にとって忘れられない時間となりました。お着物を着ると、そこに込められた意味や歴史が、現代を生きる私たちにもなお響き続けているような気がします。
知蓮 Chiren
President, Japanese Institute of St. Louis
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(参考リンク)
* Hiroya Tsukamoto Official Website
[https://hiroyatsukamoto.com/about/](https://hiroyatsukamoto.com/about/)
* Acoustic Guitar Magazine(Hiroya Tsukamoto 特集記事)
[https://acousticguitar.com/how-guitar-virtuoso-hiroya-tsukamoto-arrived-at-his-unique-acoustic-style/](https://acousticguitar.com/how-guitar-virtuoso-hiroya-tsukamoto-arrived-at-his-unique-acoustic-style/)
* ATAC160(Hiroya Tsukamoto コンサート情報)
[https://www.atac160.org/news/hiroya-tsukamoto-acoustic-transcendence](https://www.atac160.org/news/hiroya-tsukamoto-acoustic-transcendence)
* 日本民藝館(芹沢銈介紹介ページ)
[https://mingeikan.or.jp](https://mingeikan.or.jp)
* IntoJapan WARAKU(芹沢銈介といろは歌)
[https://intojapanwaraku.com/rock/craft-rock/8539/](https://intojapanwaraku.com/rock/craft-rock/8539/)
* 国立工芸館(型染伊呂波文六曲屏風・所蔵作品)
[https://www.nmwa.go.jp/ncg/collection/serizawa-iroha](https://www.nmwa.go.jp/ncg/collection/serizawa-iroha)
* メトロポリタン美術館(Serizawa Keisuke 作品)
[https://www.metmuseum.org/art/collection/search#!?q=Serizawa%20Keisuke](https://www.metmuseum.org/art/collection/search#!?q=Serizawa%20Keisuke)
