皆さまの温かいご支援のおかげで、Blue Mannequin Challenge のファイナリストに選んでいただき、さらに優勝までいただくことができました。挑戦が決まった直後、日本の祖母が突然倒れ、急遽帰国することになり、制作にかけられる時間は当初の半分に減ってしまいました。それでも、このかけがえのない機会を逃したくない一心で、最後のひと針まで縫い進めました。受賞の知らせをいただいた瞬間は、ただただ感謝の気持ちで胸がいっぱいになりました
コンセプト:日本文化 × SDGs ♻️

本作品は、私のNPOが掲げる「アメリカにおける日本文化(着物)の普及」をメインに、SDGsの視点を加えて構想いたしました。古いカーテンやクッションの布、同じくNPOであるCity Sewing Room様からいただいた生地、リメイク素材などを活用し、「日本らしさ」を表現すると同時に、第二の故郷となったアメリカへの想い、ここで出会った人々との大切な思いで、そして未来への希望を一着の中に込めています。✨
針がつなぐ、人と人
渡米してから数え切れないほどの素晴らしい出会いに恵まれました。しかし、その一方で、昼間に頭に銃口を向けられたり、誘拐未遂に遭ったり、ストーカー被害や差別に直面するなど、セントルイスならではなのか、マイノリティである故なのか、怖い体験をしたこともありました。けれども、動物への愛やアート、クラフト・手芸といった共通の関心が、人種や宗教、政治の違いを超えて人々をつないでくれると知りました。保護犬猫(豚)活動、ドッグパークでの交流、Meetup の体験で、大好きな事柄や学びを通じて喜びを分かち合う幸せを何度も実感しました。
また、私は終末期の方をお支えするドゥーラとしても活動していますが、編み物や裁縫は、患者さんとの会話を自然に楽しく続けてくれるツールになってくれることが少なくありません。また時には記憶すら呼び戻すきっかけにすらなってくれることもあります。
今回の挑戦においても、まさに「裁縫」が人と人を結ぶ架け橋となってくれました。City Sewing Room の皆さまが温かく迎え入れてくださったおかげで、最後まで走り抜けることができたと深く感謝しています。
なぜ、今、着物なのか ?
私たちの小さな非営利団体 ”Japanese Institute of St. Louis”では、手芸、着物、お茶、瞑想などを通じて日本文化を紹介しています。けれども近年の日本を見れば、抹茶は世界的なブームで価格が高騰し、日本人でも手に入れにくくなっている一方で、絹100%の着物が二束三文で売られてしまう現状があります。偏った文化が大切にされる一方で、もう片方が失われつつある現実に、とても心が痛みます。
着物は、反物から無駄を出さず直線裁ちで仕立てられ、わずかな縫い直しで世代や体型を超えて着続けられる、究極のサステナブル・ファッションです。私自身も、ひいおばあ様から受け継いだ着物をいくつか大切に持っています。
今回の作品では、そんな側面をお伝えすべく、アメリカでも気軽に着られるように上下をカットし、S〜5XLまで幅広く調整できる仕様にしました。
帯:機能と遊び心

帯は伝統を踏まえつつアレンジを加え、大きなリボン風のアニメ鬼滅の刃の「堕姫/花魁」風シルエットと、落ち着いた小さめのリボンの二種類を楽しめるようにしました。展示期間が一か月と長かったため、利便性と耐久性を考えて最終的にはマジックテープで留めましたが、造形は本来の手結びでしっかりと整えています。
デザインに込めた象徴

上衣の赤はアメリカを象徴し、バッグス・バニーの柄を選んだのは、私が最初に保護した動物がバニー(うさぎ)だった事、そして保護活動のメンターでもあった「バニーママ」へのオマージュです。
青は日本を象徴するサムライブルー。日本人の誇りと精神性を込めました。
黄色の蜂の巣柄は、国境を超える環境保護の課題を示し、この地球に生きる一員としての責任を表現しています。
下衣のスカート部分には裂け目や穴をあえて残したデニムを用い、ワーキングクラスの怒りや悲しみ、疲弊を可視化。一方で、半身の無地の黄色は環境保全への確固たる意志を象徴しました。その下に忍ばせたピンクのシフォンのフリルは、内に秘められた女性性、そして社会から課される未だに女性に課せられる課題や、越えられない「ガラスの天井」を示しています。
また全体をパッチワークにしたのは、日本の「金継ぎ」に込められた“不完全の美”も表現するためです。壊れたり異質になってしまったとしても、再び縫い合わせることで強く美しく生まれ変われる―そんな祈りをも込めました。
生地と帯、小物
帯は、寄贈いただいたクッションカバー生地を用いました。
金色かつ鱗のような模様に惹かれ、海を愛する私にとっては一目惚れした布でした。裏地には古いカーテンを使用し、縫い上げたとき蛇のような表情が生まれました。これは、社会に締め付けられる日々を象徴するイメージになりました。同時に、やがて殻を破り、大きな蝶のように自由に羽ばたく未来を願う姿として蝶リボンのデザインにしました。
帯揚げには、ミズーリに根付くネイティブ・アメリカンの文化である「PowWow」の柄を取り入れました。帯揚げとしてだけでなく、結び方やその場所によって、ベルトやスカーフ、ネクタイとしても使えるジェンダーフリーなデザインにしてみました。
アクセサリー:歴史が抱えるリバーシブル

廃棄予定だったBlu-rayケースをリメイクし、米国独立宣言を模したブックカバーを制作しました。リバーシブル仕様にしたのは、ネイティブ・アメリカンの大地に星条旗が立つ歴史を示すと同時に、未だ存在している土地返還請求問題の存在を暗示しています。戦争では誰も勝たない、正義には裏表の面があるとよく言われます。リバーシブルにすることで、それを表したかったのです。
カモフラージュ柄の折り鶴

日本では鶴は平和の象徴です。寄贈いただいたミリタリー柄の生地で折った鶴には、ミリタリーの方たちが無事に帰るようにという祈りを込めました。添えた桜(通常は5枚)は、つまみ細工であえて「ラッキー7」にあやかって七枚の花弁に仕立てました。その桜は、アメリカの大地にそっと降り立っています。
結びにかえて:ひと針毎の祈り
着物は本来、家族によって代々受け継がれ、その歴史や愛情をまといながら着る人に寄り添い、時にはほどき、また縫い直し、形を変えて受け継がれていきます。この着物デザインは、分断が叫ばれる時代にこそ、一見異なるもの同士でも共通項を見付け、理解しあい寄り添っていきたいという、私の愛と希望を形にしたものです。
私にとって人と人を結ぶ架け橋は、お裁縫、動物、アートやクラフト、日本文化、そしてボランティア活動です。疲れや苛立ちで心が曇る日も、ひと針ごとに、人との絆を思い出すことができたように思います。
この貴重な機会を与えてくださった City Sewing Room の皆さま、そして応援してくださったすべての方に、心から感謝申し上げます。どうか皆さまも、この一着のように、ご自身の「好き」を通して誰かとつながっていけますように。✨
知蓮(Chiren)
Japanese Institute of St. Louis 代表
@JIOSTL
https://www.facebook.com/JIOSTL
japanesestl.org
