🎋尺八と私の歩み

明暗の響き

日本から帰国してから2か月、私はまだ日本での写真を整理できずにいます。

3年分ほどの写真が携帯に溜まっているのに、どれも思い出が深く、なかなか手がつけられません。そんな中で改めて写真を見直して思うのは、写真を見るたびに思い出と共に「香」「音」が呼び戻されるということ。

なので、その内でも食べ物やお祭りの写真と共に日本での尺八の写真は私にとってもお気に入りの写真なのです。数年前から学んでいる尺八は、私にとって単なる楽器ではなく、心を整えるための聖なる道具、修行の一部のような存在です。
毎週日本の先生とオンラインでお話しながらレッスンを受けるのも、楽しくもありつつ心が引き締まります。

 尺八とは

日本の楽器と言えば「三味線」「箏」「笛」「太鼓」が思い浮かびます。

奈良時代に雅楽の楽器の1つとして唐から伝わりました。当時は指孔(ゆびあな)が6つで、竹製のほか、石や動物の牙で作られたものもあり、正倉院などに現存しています。尺八は『源氏物語』にも「さくはちのふえ」として登場し、貴族に愛好されていた様子がうかがえますが、12世紀には雅楽の演奏から姿を消してしまいました。
ちなみに長いものほど低い音が出て、短いもの程高い音が出ます。演奏する曲の調子にあわせて管の長さを決めます。
ちなみに、水道管や、どんなプラスチックパイプからでも尺八は作れるのですよ! 以前、手作りの尺八を水道管で作り、演奏したこともありました。
手作りの尺八を退職後の趣味にいかがですかと、音楽を始めてみたいと言っていた叔父にプレゼントしたところ、尺八か…と、とても微妙な顔をされたのを覚えています(笑)

尺八は「一尺八寸(約54.5cm)」の長さを基本として作られているものが多く、「尺八」という名前もそこから来ています。1尺6寸(約48cm)管から2尺4寸(約72cm)管のものがあります。尺八は、普化尺八(ふけしゃくはち)といわれ宗教音楽に用いられることが多いです。
時代劇でもよく見られるように、江戸時代には虚無僧がお経のかわりに尺八を吹き、各地を回りました。明治時代になり普化宗(ふけしゅう)が廃止されると、庶民の間にも広まり、箏、三味線との合奏、民謡の伴奏などに活躍して、現在にいたっています。

私と尺八の出会い

実を言えば、私は子どもの頃から打楽器(木琴や鉄琴)のほうが好きで、尺八を吹くとは思ってもいませんでした。というより、私は音楽自体が得意ではありません。

ピアノも長く習っていましたが、家族に言われるまま続けていたので楽しめず、受験期にやめてしまいました。祖母も叔母も、箏は師範、三味線も上手で、祖母、叔母、母は日舞も長くしており、その他ピアノやフルート、民謡、長唄ととにかく多才でした。
父は、生前アコースティックギターやエレキをしていたらしいのですが、あまり上手ではなかったらしいので、きっと私は父方のDNAを引き継いでいるのでしょう(笑)

そんな私が尺八を始めたきっかけは、小さな頃から時代劇の虚無僧にあこがれていたことと「たまたま最初に音が出て調子にのった」こと。

初心者には音を出すのが非常に難しいと言われる尺八ですが、ビギナーズラックのように音が出てしまい、「向いているよ!」と先生にのせられました(笑)

ですが、そこから先は本当の修行。音は出ても、美しい音にはならず、息も続かず、音程も定まりません。音が出る=音楽を奏でることにはならないからです。

その日の体調や心の機微が尺八に如実に現れます。息が乱れると音も乱れ、心が軽やかであれば音も澄んでいきます。息を吹き込むその瞬間、心が整い、音が空気に乗っていく中に、その日の自分自身の分身を見ているような感覚があります。
息継ぎ=心のありかたそのものなのです。
たった1本の穴の開いた竹の中に、呼吸・間すべてが詰まっていて尺八が、禅や仏教修行の中で吹かれてきた瞑想の音ともいわれる所以がわかる気がします。

琴古流と都山流、明暗流

現在の尺八には多くの流派がありますが、代表的なのは琴古流と都山流です。
琴古流とは、江戸時代中期の黒澤琴古が各地の虚無僧寺を巡って集めた本曲を整理し、精神性・伝統・静寂を重んじています。そのため、 吹く姿も、どこか祈りのように静かだと言われています。

都山流とは、  明治時代に中尾都山が創立した流派で西洋音階に対応した記譜法を用い、教育体系が整っており、近代的な演奏や合奏曲が多いです。1896年(明治29年)に大阪で始まり、今では世界でもっとも広く学ばれている流派です。
そして、明暗流は、尺八の古典本曲を伝える流派で、広義には虚無僧寺に伝わる古典本曲の流派総称です。狭義では、特に京都の明暗寺に伝わった尺八の系譜を指します。中国唐代の普化禅師が托鉢の際に鳴らした鈴の音を、尺八で模したのが始まりとされています。

私が学んでいる流派は、都山流で、京都の明暗寺の明暗流にも属しています。

どの流派に属するか、まず学ぶ前に本当に沢山の有名な先生方にお会いさせていただきました。どちらの流派にもそれぞれの良さがあると思いますが、都山流を選んだ理由は、音楽の才能もなく、ただアメリカにいて口伝がメインである琴古流は私にとって学びにくいのではないかという単純な理由です。また琴古流は、免状発行組織は師匠の判断による場合が多く、試験がない場合が多いことにもあります。

私は何事も基礎からしっかりと学ぶために学校へ通い、好きだと思えば継続し、試験を受けて資格を取得するタイプです。その意味でも、都山流は自分に向いていると思えました。(もちろん今まで途中で諦めたことも沢山あります…笑)

以前「資格ばかり取って資格が好きなんですね」と言われたことがあり、そういう受け止め方をする人もいるのだと驚いたことがあります。

私の家族は多趣味で、ほとんど全員が本業とは別に数多くの資格を持っている環境で育ったため、人生一度きり!やるならしっかりと!それが自然なことだと思ってきました。

ただ私自身は、決して物覚えが良いわけではなく、本がないと勉強できないし、自己流で変な癖をつけてしまうことも怖いのです。だからこそ、先生が長年の経験の中で培われた技術や知恵を学べることがとても楽しく、気づけばいつまでも“万年学生”のように学び続けてしまいます。

日本でのレッスン 

アメリカにいる間は毎週オンラインで稽古を受け、日本に帰るたびに直接の指導を受けています。ありがたいことに、私の師は都山流の血脈(山名)を数人しか継げない中のひとり。

箏の師匠の叔母の旦那さんであったため、ご紹介いただけました。中国、メキシコ、大阪万博やギネスにも出られたお方です。その師のもとで学べることは、まさにありがたい仏縁そのものです。

ただ先生は天才すぎて、耳コピができるため音痴の私の苦労はわかってくださいません。そんな天才の先生のお言葉で忘れられないものが「どんな天才でも努力はする」です。ぐぅの音も出ませんでした。そんなおじいちゃん師匠と弟子としての時々する喧嘩も楽しいです。

いつかアメリカで一緒に演奏しようね!と言ってくれているのですが、なぜか日本祭からオファーのお返事が来ないので、尺八のセントルイスもといアメリカでの認知度がまだまだなのでしょう。悲しい…着物文化と共にもっと和楽器も頑張って広めたいものです。

こんな私ですが、下手なりにも、去年、都山流から中伝(Intermediate)の免許を頂きました。そして、この夏は京都の明暗寺(妙心寺派 東福寺・善慧院 明暗寺)にて御免許をいただきました。

当日は雨が降りしきる中で、アメリカから大事に持って帰ってきた二つに折りたたんだ尺八を組み立て、息を整え、一曲を吹き上げました。明暗流は「吹禅」という思想を今も大切にしています。吹禅とは、文字通り「吹く禅」。

尺八を吹く行為そのものが座禅であり、音を通じて心を見つめる修行です。日本の伝統尺八の中でも、特に深い精神性と歴史を持つ「普化明暗尺八」は、普化尺八の精神と伝承曲を守り継ぐ中心として、今も静かにその歴史を刻み続けています。
久々に明暗寺で1時間ほどした正座もし、吹く前には仏さまに手を合わせました。

「音を通じて人を癒す」というには私の尺八は、まだまだですが、音を通して自身の仏道の精神を修めることには役立ってくれています。

尺八が教えてくれること

自分の心が澄むほど、音が澄んでいく。つまり、音はその人の心そのものを映し出します。

吹いているうちに、オクターブ(甲乙)の切り替えが出来ずに私は何度も壁にぶつかりました。思うように音が出ず、焦るとさらに音が乱れ、出て嬉しくなって焦ると、先走ってまた出なくなる。

人生「焦らないこと」そのものを尺八が教えてくれるような気がしました。

尺八を練習しているうちに「うまくなる」ために吹くのではなく、「今ここにいる自分」の有り方を見付けるために吹くもの。そんな気がしています。

毎日30分練習するのも、体調的にしんどい時もありますが、仏教勤行をすると心が安らぐように、尺八の呼吸が私の生活の一部になりました。時々音が思うように出ずに、おたけびをあげて、里親の猫を驚かせてしまう日もありますが、だって人間だもの(相田みつを)笑
自分の息が、音が、空気の中にのるたびに、私はまだ「生きている」ということを思い出し感謝しています。

Chiren

President, Japanese Institute of St. Louis

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📚 参考リンク一覧

* 琴古流と都山流 それぞれの違い

  [https://www.takahisa-kawasaki.com/post/%E7%90%B4%E5%8F%A4%E6%B5%81%E3%81%A8%E9%83%BD%E5%B1%B1%E6%B5%81-%E3%81%9D%E3%82%8C%E3%81%9E%E3%82%8C%E3%81%AE%E9%81%95%E3%81%84](https://www.takahisa-kawasaki.com/post/%E7%90%B4%E5%8F%A4%E6%B5%81%E3%81%A8%E9%83%BD%E5%B1%B1%E6%B5%81-%E3%81%9D%E3%82%8C%E3%81%9E%E3%82%8C%E3%81%AE%E9%81%95%E3%81%84)

* 尺八の流派について

  [https://www.takahisa-kawasaki.com/post/%E5%B0%BA%E5%85%AB%E3%81%AE%E6%B5%81%E6%B4%BE%E3%81%AB%E3%81%A4%E3%81%84%E3%81%A6](https://www.takahisa-kawasaki.com/post/%E5%B0%BA%E5%85%AB%E3%81%AE%E6%B5%81%E6%B4%BE%E3%81%AB%E3%81%A4%E3%81%84%E3%81%A6)

*文化庁

https://www2.ntj.jac.go.jp/dglib/contents/learn/edc6/edc_new/html/501_shakuhachi.html#:~:text=%E6%A8%99%E6%BA%96%E3%81%AE%E9%95%B7%E3%81%95%E3%81%8C,%E4%BD%8E%E3%81%84%E9%9F%B3%E3%81%8C%E5%87%BA%E3%81%BE%E3%81%99%E3%80%82

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