皆さんは、桜と聞いて何をイメージしますか?
日本人にとって、桜の季節は出会いと別れの季節です。そして「桜の木の下には死体が埋まっている」――そんな怖いフレーズを聞いたことがある方もいるかもしれません。これは、大正から昭和にかけて活躍した作家・梶井基次郎の短編小説『櫻の樹の下には』に由来するものだそうです。

私の母方は四国、父方は京都の出身なのですが、子どもの頃、祖母達から少し不思議な言い伝えを聞いたことがあります。四国では「桜を庭に植えると家が没落するから植えてはいけない」、京都では「女の子に花の名前をつけてはいけない」というものです。その理由は、短命になるとか、身分の低い者の名乗りであるからだとされていました(遊女を指していたのだと思われます)。幼い私には、詳しい背景まではわかりませんでしたが、強く心に残っています。

そんな四国出身の祖母が好んでいた桜にまつわる句がこちらです。
「花は桜木 人は武士」ー 西行法師
西行は武家の出身でありながら、若くして出家し、多くの和歌を詠んだ人物です。
私の祖母は、四国にある城の城主の娘でした。第二次世界中は日本軍が祖母の城に駐留することになり、第二次世界大戦後は全てを失い、政略結婚をしなければならず、結婚後もその見た目とは裏腹に大変苦労したと聞きました。「花は桜木 人は武士」この言葉の裏には、彼女自身の桜の様な儚くも凛とした強く美しくある様と、内面の武士の潔さ、そんな生き方の美学を重ねていたのかもしれません。
子どもの頃は通学の合間やお風呂の時間に、祖母から思い出話や昔話を聞かされたり、和歌や詩の暗唱をさせられるのが少々億劫でした。しかし今、私自身が当時の祖母の年齢に近づいてきたことで、その頃の祖母の思いが少しずつ理解できるようになった気がしています。そして、あの頃の記憶が、今になって優しく胸に沁みてくるのです。

そこで今回は、併せて西行法師にまつわるちょっと驚きの逸話を二つご紹介したいと思います。
まずは中でも辞世の句として有名な
「願わくは 花の下にて 春死なむ そのきさらぎの 望月のころ」
これは
「桜の花の下で、春に死にたい。その日が、きさらぎ(旧暦2月)の満月の頃でありますように」
という僧としての美しくも静かな死への覚悟と願いが込められています。
「きさらぎの望月のころ」とは、旧暦2月15日、釈迦が入滅したとされる「涅槃会(ねはんえ)」の日のことです。そして驚くことに、西行はその翌日、旧暦2月16日に河内の弘川寺で亡くなったと伝えられています。そのため「仏縁を得た歌人」とも呼ばれていますが、近年では自ら命を絶った可能性も指摘されています。当時は、修行の一環として断食や断水を行い、即身仏として死を迎える僧もいたため、西行法師も涅槃会に合わせて死期を選んだのではないか、という見方もあるのです。
そしてもう一つ、さらに面白いエピソードが、鎌倉時代の仏教説話集『撰集抄(せんじゅうしょう)』に収められた「西行、奥の高野にて人を造る事」という話。
まるでフランケンシュタインやダ・ヴィンチ、陰陽師、あるいは鋼の錬金術師や呪術廻戦を思わせるようなエピソードです。西行法師が生きていたとされるのは1118年〜1190年ですが、人間の想像力や孤独、創造への欲求は昔からそう変わらないのかもしれません。
撰集抄では、高野山で修行をしていた西行法師が、孤独を紛らわせるために人造人間を作ろうとします。彼は死者の骨を拾い集め、頭や手足を組み立て、薬草で清め、「反魂の秘術」を使って魂を宿らせようとします。しかし出来上がった人造人間は、顔色も悪く、心も言葉も持たず、ただ笛のような音を立てるだけの失敗作でした。西行法師は失敗作とはいえ、廃棄すれば殺人罪になるかもしれない。心がないから草木と同じようにも思えるけれど、人の姿をしているからやっかいだ。」と考え、それを人里離れた高野の奥に放置してしまいます。
その後、彼はこの「人造り」の秘術を教えた人物を訪ね、自分のやり方に誤りがあったことを知ります。正しい術を教えられたものの、西行は二度と人を作ろうとはしませんでした。
この決断には、命を生み出すことへの畏れと、仏教的な禁忌への自覚、そして静かな反省が感じられます。
ちなみにこの説話には、作り方が“ステップ・バイ・ステップ”で詳細に描かれており、材料にはお香のほか、いちご、はこべ、むくげ、藤なども使われていたそうです。今でも着物の柄に登場する植物が多く、とても興味深いですね。
また、鬼が人間を作るという話もいくつか伝わっており、日本独自の不思議な死生観がそこにはあるように思えます。
さて、皆さんは「散りゆく桜」に美しさを感じますか?
それとも「今、力強く咲く桜」に惹かれますか?
もし、あなたが西行法師だったなら、どちらを選ぶでしょう?

先週末、JIOSTLでは4月のKIMONO CLUB 着物クラブMEET UPをSt. Louis Botanical Gardenにて開催しました。ちなみにモデルさんが着ているお着物には、桜柄が入っていません。
桜の季節に桜柄を着るのは「イケズ(粋じゃない)」とされるのです。
JIOSTLでは、こうした着物文化や紋様の意味、そして美しい着付けについて学べる機会を設けています。
さらに、死生観を見つめなおすワークショップも開催中です。
ご興味のある方は「お問い合わせ」ページ、またはFacebook・Instagramからお気軽にご連絡くださいね。

参照:
http://www2.yamanashi-ken.ac.jp/~itoyo/basho/whoswho/saigyo.htm
https://intojapanwaraku.com/rock/culture-rock/220270/
https://www.nikkei.com/article/DGXLASHC13H55_T10C15A3AA1P00/#:~:text=%E8%A5%BF%E8%A1%8C%E3%81%AF1190%E5%B9%B42,%E3%81%9F%E3%81%A1%E3%81%AB%E3%82%88%E3%81%A3%E3%81%A6%E8%AA%9E%E3%82%8A%E7%B6%99%E3%81%8C%E3%82%8C%E3%81%9F%E3%80%82&text=%E3%81%97%E3%81%8B%E3%81%97%E8%BF%91%E5%B9%B4%E3%80%8C%E8%A5%BF%E8%A1%8C%E3%81%AE%E6%AD%BB,%E3%81%AE%E3%81%8C%E5%B1%B1%E6%8A%98%E6%B0%8F%E3%81%A0%E3%80%82
https://note.com/elamajp/n/n978b602bba0c?sub_rt=share_b&fbclid=IwY2xjawJqvVRleHRuA2FlbQIxMAABHq7gppLx9OPnQdwKhM650kANnNi0VzLk7FMY8j0_3JooEwKok4EbciJpWqYk_aem_f72lRIDbmQ5swjzrZz5qvg
写真提供(お着物仲間かつ神戸の写真家):https://www.instagram.com/sonnar_xenon_love/
